この記事は、皮膚ガス研究の第一人者である東海大学・関根嘉香教授の知見を参考に、体臭と環境問題の意外な関係についてまとめています。
1. 部屋の空気が汚れている原因は「建材」ではなく「人間」?

関根教授はもともと大気環境、特に「シックハウス症候群」などの室内空気汚染を専門に研究されていました。その際、次のような経験をしたことがきっかけになったと語られています。
- 「人間そのものが汚染源」という発見
室内空気中の化学物質(ホルムアルデヒドなど)を測定している際、建材などの発生源をすべて取り除いても、なぜか特定の物質の濃度が下がらないという現象に直面しました。そこで「もしかして人間自身から出ているのでは?」と考え、自身を袋に入れて測定したところ、実際に皮膚からガスが出ていることが証明されました。 - 血液との連動に気づく
さらに、お酒を飲んだ後に測定するとアセトアルデヒドが、ニンニクを食べるとその成分が皮膚から放出されることを確認し、「皮膚ガスは血液の状態を反映している」という確信に至ったそうです。
「環境問題(外側の空気)」を調べていたつもりが、実は「人間(内側の状態)」が空気を変えていたという逆転の発想が、現在の皮膚ガス研究の基礎になっています。
あらゆる発生源を除去しても、ある特定の空気中の化学物質濃度が下がらない……その理由は、「人間そのものがガスを放出する発生源(汚染源)になっていた」からです。
2. 「皮膚ガス」が周囲に与えるメカニズム

皮膚ガスとは、皮膚の表面から放出されるごく微量の揮発性物質の総称で、その成分は約800種類にも及ぶといわれています 。私たちが「体臭」として感じるものの多くは、この皮膚ガスが原因です。
これらは単なる表面の汚れではなく、「血液の状態」を反映しています。
皮膚ガスが発生する主なルートは以下の3つに分けられます
- 皮膚表面由来: 汗や皮脂が皮膚の常在菌によって分解されることで発生するにおい(例:汗臭、加齢臭) 。
- 血液由来: 血液中の成分が揮発して、皮膚を通り抜けて放出されるもの。内臓の状態や代謝が反映されます(例:疲労によるアンモニア臭、お酒の後のアセトアルデヒド) 。
- 皮膚腺由来: 汗腺や脂腺を通じて、分泌物とともに直接出てくるにおい 。
血液から空気に漏れ出す成分
- お酒を飲んだ後: アセトアルデヒド(二日酔い成分)が皮膚から揮発
- 疲れが溜まっている時: アンモニア(疲労臭)が放出
- ストレスを感じた時: 特有の硫黄化合物(ストレス臭)が発生
これらのガスは、自分では気づかないうちに室内の空気に混ざり、周囲の人に届いています。
最近の研究では、ストレスを感じた時に出る「ストレス臭(STチオジメタン)」なども皮膚ガスの一種であることが分かっており、体臭は単なる「におい」だけでなく、心身の健康状態を映すメッセージとしても注目されています 。
3. 周囲の人への具体的な影響とは

人間から出るガスが周囲に与える影響として、近年注目されているのが以下のポイントです。
- 空間の快適性の低下: 閉め切った会議室や満員電車での「独特なニオイ」の正体は、集団から放出される皮膚ガスの混合物です。
- PATM(パトム)への関与: 特定の人の周りで他人がくしゃみや咳をする「PATM」という現象。これも、その人の皮膚ガス成分が周囲の人の鼻や喉を刺激している可能性が研究されています。
- 心理的な不快感: 疲労臭(アンモニア)やストレス臭は、周囲の人に「緊張感」や「不快な疲労感」を伝染させてしまう心理的リスクも指摘されています。
4.「スメハラ」と「皮膚ガス」の関係

現代で社会問題化している『スメハラ』。
実はその多くが、単なる不摂生ではなく、内臓の疲れやストレスが原因の『皮膚ガス』によるものかもしれません。
関根教授の研究と「スメハラ」を関連付けると、従来の「マナー違反」という視点とは異なる、科学的な側面が見えてきます。
1. 「洗っても落ちない」スメハラの正体
一般的なスメハラ対策といえば「お風呂に入る」「デオドラント剤を使う」といった「外側のケア」が主でした。
しかし、関根教授が解明した血液由来の皮膚ガス(疲労臭やストレス臭)は、体の内側から染み出してくるため、表面を洗うだけでは防ぎきれません。
これが、本人が気づかないうちに周囲に不快感を与えてしまう「防ぎにくいスメハラ」の原因になっています。
2. 「不快」だけじゃない、感情の伝染
最近の研究では、ストレスを感じた時に出る皮膚ガス(ストレス臭)を他人が嗅ぐと、嗅いだ人の心理状態までネガティブに変化したり、混乱を招いたりすることが分かっています。
- 単なる「臭い」の問題:鼻をつまめば済む
- 「スメハラ」としての問題:周囲の作業効率を下げたり、職場の雰囲気を悪化させたりする「実害」を伴う
周囲へのマナーとして、外側を飾るだけでなく、自分の体調という『空気の源泉』を見直すことが、真のスメハラ対策と言えるでしょう。
5. 「自分を汚染源にしない」ための対策

関根教授は、皮膚ガスを「体の中を映す鏡」と呼んでいます。周囲への影響を抑えるためには、表面を洗うだけでなく「体内環境」を整えることが不可欠です。
- 肝臓を休める: アンモニア(疲労臭)を抑えるため、休肝日を作り、タンパク質の摂りすぎに注意する。
- 抗酸化食品を摂る: 皮脂の酸化(加齢臭など)を防ぐため、ビタミンCやEを摂取する。
- ストレスケア: ストレス臭を防ぐため、リラックスする時間を持つ。
腸内環境を整えると皮膚ガスがいい匂いに変わる!?
「腸内環境」と「皮膚ガス」は密接に関係しており、腸の状態が整うと体臭(皮膚ガス)の質が劇的に変わります。
関根教授も、皮膚ガスは「血液の鏡」であると述べていますが、その血液にニオイ成分を送り込んでいる大きな源の一つが「腸」だからです。
なぜ腸内環境でニオイが変わるのか?
- 悪玉菌がつくる「腐敗臭」
腸内で悪玉菌が優勢になると、タンパク質などが腐敗し、アンモニア、インドール、スカトールといった強烈なニオイ物質が発生します。 - 血液への逆流
これらのニオイ成分は腸壁から吸収されて血液に入り、全身をめぐります。そして、肺からは「吐息」として、皮膚からは「皮膚ガス」として放出されます。これが、いわゆる「便臭のような体臭」の正体です。 - 善玉菌がつくる「いい匂い」
逆に腸内環境が整い、善玉菌が活発になると、乳酸や酢酸などの「有機酸」が作られます。これらはニオイを抑えるだけでなく、実は「甘い香り(ラクトン)」などの若い頃特有の皮膚ガスを増やす手助けをするとも言われています。
腸内環境を整えるポイント
- 水溶性食物繊維を摂る: 善玉菌のエサになり、ニオイ物質の吸収を抑えます(海藻、納豆、オクラなど)。
- 発酵食品の活用: 腸内フローラを整え、血液をクリーンにします(味噌、キムチ、ヨーグルトなど)。
- オリゴ糖: 善玉菌をピンポイントで増やし、腐敗ガスの発生を食い止めます。
まとめ:空気ケアは「自分自身の健康管理」から
私たちは生きている限り、常に周囲の空気と成分を交換し合っています。
「なんか部屋が臭うな?」と感じたとき、それは空気清浄機が必要なサインではなく、自分自身の体が「休んでほしい」と発しているサインかもしれません。
※この記事の参考文献・引用元
- 監修・研究協力: 関根嘉香 教授(東海大学 理学部化学科)
- 出典元: 東海大学 公式サイト、各ニュースメディアでの皮膚ガス解説


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